フェミニズムは1つではない
たくさんのフォロー、応援をいただき誠にありがとうございます。
今回は、管理人がこのサイトを立ち上げようと思ったきっかけの話です。
他の記事ではなるべく客観的な論調をと心がけておりますが、今回に限り、「私」という一人称でお話させていただきます。
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私はTwitterを始めるよりも数年前から、フェミニズムという思想に興味がありました。
当時の私の認識では、フェミニズムとは、
「男女がお互いを尊重しあい、お互いの立場を認めて、お互いが住みよい社会を目指す」
というものだと認識しており、いわゆる男尊女卑の世の中を緩やかに壊して再構築する、といったイメージを持っていました。
Twitterを始めた頃、プロフィールにも「フェミニスト」と書かれている方々が少なからず見受けられたので、そうした新しい社会の創造に向けた議論が出来たら嬉しい、と考えていました。
これからの時代の家族、夫婦のあり方といった話題についても論じられればと。
ところが。
いざTwitterの世界に入ってみると、フェミニストを標榜する人たちは、仲間同士でがっちりとグループを形成しており、彼ら彼女らが「アンチフェミニスト」と呼ぶグループと、ひたすらにガミガミと抗争を繰り広げているばかりです。
平和な社会の樹立に向けた前向きな議論がなされているようには、とても見えませんでした。
はて…?と思いつつも、いくつかの議論に参加して、
「私もフェミニズムを勉強中なのですが」
と、フェミニスト側に問いかけてみても、
「そんなものはフェミニズムではない!お前は男の味方をするのか!」
と一蹴される有様でした。
これにはさすがに呆気にとられました。
そもそも、私の中にあるフェミニズムでは、「男の味方」「女の味方」といった考え方自体がありませんでしたから。
不思議に思いつつも、
「何か自分のフェミニズムへの認識に間違いがあるのだろうか…?」
と考え、近所の図書館に行った折に、フェミニズムに関連する書棚をざっと眺めていたら、そこでも書籍ごとの論調があまりにバラバラであることに気づきました。
今も勉強中ではあるのですが、その頃は本当に不勉強だったのですね。
フェミニズムにも派閥、とまでは言いませんが、流派のようなものがあることをその時まで知りませんでした。
図書館の本を漁りながら、フェミニズムには大別して、
「リベラル・フェミニズム」
「ラディカル・フェミニズム」
「マルクス主義フェミニズム」
という、フェミニズムの「ビッグスリー」と呼ばれる3つの大きな流派があることを知りました。
(続)
あなたのフェミニズムはどこから?
非常にざっくりとではありますが、それぞれのフェミニズムについて解説します。
(実際には少数の他の流派も有り、また、この3つもさらに細かく分かれたりしていますが、ここでは簡略にまとめております。ご容赦ください)
■リベラル・フェミニズム
私がもともとフェミニズムだと思っていたのがこれです。
名前の通り、リベラル民主主義の理念から派生したもので、明確に定義された哲学を持たないのが特徴の一つだと言われています。
方向性としては、世の中における物質的な不平等を是正すること、法に基づいた正当な手段を用いることで性差別をなくすことは可能である、として、男性社会をむやみに敵に回さずともそれは実現できる、というものです。
実際、歴史的に見ても男性の賛同者が多いことでも知られており、また、人種差別や同性婚といった問題も、同じ手法で解決に向かえるはずだという考えを持つ人が多いです。
私は、支持する支持しないというよりも、単にこの考え方が好きなのですw。
■マルクス主義フェミニズム
これはおそらく、日本では聞き慣れない方がほとんどではないでしょうか?
ですが私は、最近よくフェミニズムとして取り沙汰されるものの多くは、このマルクス主義フェミニズムに端を発しているものが多いと見ています。
「マルクス主義」自体は、学校などで習ってご存知という人は多いでしょう。
経済学者であるカール・マルクスが提唱した社会主義思想ですね。
で、マルクス主義とフェミニズムが結びついてどうなるのかと言いますと、この思想によって、「家事労働」という、ある意味で画期的な概念が誕生したのです。
基本的な考えは、
・労働者を支えるために家事を行なっている女性は、間接的にその労働によって得られるべき対価を資本家に吸い取られている。
・つまるところ、家事も立派な労働である。
・その資本によって利益が生み出されるならば、それは『家事労働』に従事している女性も享受する権利がある。
からさらに進んで、
・『家事労働』によって生み出された余剰の利潤によって、女性を抑圧し家に閉じ込めておくための男性中心社会が形成されている。
という主張から、
・それが女性にきちんと分配されれば、女性は労働の対価を得るとともに、男性社会から解放される。
といったものです。
いかがでしょう?「家事は労働」という考えは、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ちなみに、著名なフェミニストである上野千鶴子氏は、よくラディカル系フェミニストと言われますが、現在ではこのマルクス主義フェミニストに傾倒していることを表明しており、著書も出版されています。
<参考>
家父長制と資本制―マルクス主義フェミニズムの地平(岩波書店/著:上野千鶴子)
ただ、このマルクス主義系は、
・そもそも家事は労働なのか?
・労働だとしても対価の額はどのように決定されるのか?
・家事をしない女性は解放されないのか?
・男性も家事をする場合の対価はどうなるのか?
といった、割と分かりやすい懸念事項をたくさん抱えており、そもそも女性が一様に家庭に収まっていた頃なら成立したものの、家事・育児・仕事の分担が叫ばれる現代への適用は難しくなってきているとも言われています。
■ラディカル・フェミニズム
一番目に述べたリベラルフェミニズムは、「男性社会」という概念があまり議論に出てこないのも特徴です。
男性が幅を利かせている社会だから女性が成功できない、といった考えではなく、社会とはすでに男女というカテゴリーだけではない、さまざまな立場の人間がいて成り立っている、もしそこに差があるのなら、それをお互いの努力で埋めていこう、という思想でした。
が。
この「ラディカル・フェミニズム」は、その対極と言っても過言ではないです。
まず世の中を「家父長制」と称し、女性は男性から性的に従属させられ支配されていると考え、社会における男性の優位性が、すべての面で女性が排除される原因となっているので、社会を根本から再構築することを要求する、というものです。
要は「男は敵」などというところに留まらず、「この社会は男が自分たちの都合の良いように作ったものなので、社会そのものが敵だ。世の中を作り変えろ」という、非常に過激なものです。
ポルノ、性産業、DV、セクハラといった問題に敏感に反応し、また、それらの実際の被害者である女性が傾倒するパターンが多く見られます。
また、ポルノでなくとも女性を性的に消費していると認定したものに対しても、是正や改善ではなく、確実な排除を求めてゆく傾向があります。
おそらく、SNSなどでフェミニストを標榜されている方の多くが、このラディカル・フェミニズムに近いのではないでしょうか。
(ご自身でそうと認識していない場合も多いような気はしますが)
しかし、「全ての女性は虐げられている」という前提への意識が強すぎて、しばしば結婚観や夫婦・カップルの在り方にまで提言することもあり、多様化する社会にはそぐわない面もあるのでは、という指摘も近年ではあるようです。
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ここまででなんとなく察していただけたのではと思うのですが、一番目と三番目、リベラル派とラディカル派というのは、DVやセクハラなどの問題を除いた、社会構造の再編成に対する考え方においては、ほとんどと言っていいほど相容れません(汗
よくSNSでも「フェミニスト同士の自浄作用というのは働かないのか」という話がありますが、過激に過ぎる意見に対するものとしては、それぞれの派閥の中で自浄作用を発しようとする人でも現れない限りは難しいだろうな…というのが実感です。
ただ、もちろんですが、どのような派であっても、女性のために真摯に活動を続けていらっしゃる方は当然ながらいます。
過激な意見であっても、話の道筋が通っているのであれば、それはどうか査収していただければと思います。
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といった感じで、一口に「フェミニズム」と言っても、さまざまな考えがあるのがお分かりいただけるでしょうか。
私も自分の知りうる限りでして、おそらく細かい部分でツッコミをいただくことになろうと思いますが、とにかく違いがあるということをお伝えできればと思った次第です。
とはいえ正直なところ、フェミニストを自称される方でも、この程度でさえも認識されている人も少ないのでは?というが実感です。
もしSNSなどで、「我こそはフェミニストなり!」と仰る方と議論になったら、開口一番で、
「なるほど。ところで、
あなたはどの思想のフェミニストですか?」
と、尋ねてみて、即答できる方かどうか確認してみるのも良いかも知れませんw
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さて、そうなると当然ながら、
「なんで同じフェミニズムなのに、ここまで意見がバラバラなの…?」
と思われた方もいるでしょう。
そこです。
それこそがフェミニズムにとって重要なことであり、そしておそらく、多くのフェミニストを自称する方々が勘違いしていることなのです。
(続)
フェミニストは安易な肩書ではない
前述の通り、フェミニズムの考えはさまざまです。
ですが、いずれも最終的なゴールとして、
「性差によるさまざまな抑圧から人々を解放する」
という点は同じなのです。
実際にはゴールも若干違ったりするのですがw、ただやはり目指している場所は基本的に同じ、ということです。
つまり、フェミニズムとはあくまで、そのゴールに辿り着くための「手段」に過ぎないのです。
手段は色々とあれども、最後にそこに辿り着ければよいのです。
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しかしながら、昨今どうも、フェミニズムに沿うのではなく、
「フェミニストになること」
そして
「フェミニストで居続けること」
が「目的」になってしまっている人が多く見受けられるように感じます。
ただ戦うことに己を見出してしまった兵士のように、敵と認定した相手を攻撃することに喜びをおぼえ、本来何のために戦っていたのかの理由も忘れて、激しく活躍しているように見えてはいるものの、実際には前線が一歩も前に進んでいない、という状態の人です。
また加えて、それらの人々を見て、
「フェミニストを名乗れば好きなことを言っても許される!」
という思い違いをした人が、続々とプロフィールに「フェミニスト」という称号をつけて寄り集まっていることです。
その中のどれほどの人が、先ほどの「あなたはどのフェミニスト?」といった質問に答えられるのか、甚だ疑問です。
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私は、自らフェミニストとは名乗っていません。
それは別に、上記のような方々と一緒に見られるのが嫌だ、ということではなく、
「フェミニストを名乗ることに、意味も魅力も感じないから」
です。
フェミニズムというのは、単にそうした思想にたまたま名前が付けられているだけであって、
「それがフェミニズムと呼ばれていると知らなかったが、同様の考えを持っている」
という人は、世の中にたくさんいると思っています。
そうした人達が協力して、社会を自分たちが目指す方向に導けばよいだけの話で、その人達に向かって「じゃあ僕らは同じフェミニストとして頑張ろう!」と言うのは、何か違うというか、そもそも意味が無いのではないでしょうか?
しかしながら、全ての人が、とは言いませんが、フェミニストを名乗る人の中に、
「フェミニズムを実践したい」
ではなく、ただ単に、
「フェミニストというグループに入りたい」
というだけの人が、少なからずいるように感じています。
自分の主張を声高に叫ぶためだけに、フェミニストという肩書が欲しい。
フェミニストのグループに入っていることで、何か自分が大きな輪に守られているような気になってしまう。
それは別にフェミニズムでなくても起きうることで、人は誰でも、同じ思想の集団にいることで安心したがる生き物です。
ただ私は、フェミニストとはそういうものではないと感じています。
上野千鶴子先生が提唱されている、
「フェミニストは一人一派」だという言葉は、よく身勝手で悪い意味だと捉えられがちですが、私はそうではなく、
「フェミニストとは本来、一人ひとりが己の信念を持ち、それぞれの状況の中で戦うものである。安易にカテゴライズされるべきものではない」
という主旨だと捉えておりまして、上野先生にはついていけない部分も多いですがw、これには賛同しています。
ですから、グループを作って中に入り、その中にいる時しか「一人一派だ!」と叫ばないのは違うし、非難されるのも仕方がないと思っています。
というわけで、私はリベラル・フェミニズムに共感しているので、他人から見れば「あの人はフェミニストだな」と言われるでしょうし、特に否定もしませんが、今のところはまだ自分から名乗ろうとは思わない、といったところです。
なお、フェミニストと呼ばれることで嫌な気持ちになったりはしませんので、どうぞお気遣いなくm(_ _)m
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このサイトは意見を述べる場として作りましたが、私にとって一つの実験でもあります。
本来フェミニズムとは、ラディカルでもリベラルでもマルクスでも、世の中を全ての人々にとってより良い方向へ向かわせよう、という思想のはずです。
ですから、丁寧に説明すれば、フェミニズムに興味を持ってくれる賛同者も多く集まるはずだと思っているのです。
ですが、「話を聞いてください」とお願いすること自体を「負け」だと評し、「話を聞け」と言って聞かないやつは無理矢理に耳にねじ込め、それでもダメなら無視して実力行使だ、という人さえいます。
私には、その「勝ち負け」というのが既に分かりません。
仮に、その瞬間に勝った負けたがあったとしても、最終的に自分たちが思う世界が創造できたなら、それを皆の勝利だと思って喜び合えればそれでいいではないか、と思うのです。
大声で怒鳴りつけても聞いてもらえない話もあれば、小声で密やかに話しても、それが真剣でありさえすれば耳を傾けてもらえる話もあります。
私はこのネットの片隅で、小さな声ですが、でも精一杯に真面目に、この世界とフェミニズムに関する話ができれば、と考えています。
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「でも、フェミニストは名乗らない、と言ったが、このサイトの名前に『フェミニスト』と入っているではないか?」
と思われた方もいるかも知れませんw。
実は、サイト名を付ける時、「フェミニズム~」にするか、「フェミニスト~」にするか、ずいぶん悩みました。
けれども、私が目指すゴールの一つは、誰もが何の臆面もなく、老若も男女も関係なく、恥ずかしがらずに「私はフェミニストです。そうした考えを持つ人間です」と、笑顔で名乗れること、でしたので、あえて「フェミニスト」を選択しました。
いつかこのサイトに付けられた言葉が、世にありふれる凡庸なものだと思われる日が来るのを、心より祈念しております。
(了)
<参考URL>
https://en.wikipedia.org/wiki/Liberal_feminism
https://en.wikipedia.org/wiki/Radical_feminism
https://liberal-arts-guide.com/radical-feminism/
https://liberal-arts-guide.com/marxismus/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshioroji/36/2/36_146/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/53/3/53_23/_pdf